八極拳の技術を構成するのは、基本的には套路である。套路には決まった形があり(有形)、初学者は必ず形の習得から学 び始める必要がある。しかし、実際の運用に当たっては、情況に応じて臨機応変に対応しなければならず(無形)、したがって、変化を生み出す原理こそが技撃 の核心なのであり、套路の外形を身につけた後は、さらに、その中に含まれる理論と方法(技撃的用法)を開門(研究)することが求められる。八極拳が持つ独 特の風格と特長も、内在する原理が体現された結果なのである。
八極拳の理論は、過去の経験に加えて、「百家の長」つまり多方面の学術分野の成果を吸収し整理されているが、とりわけ理論を理 解する上で最も重要なのが「中国古代哲学」である。陰陽八卦の説の拠り所ともなっている《易経》は中国思想の根幹を為す哲学書であり、八極拳にも多大なる 影響を与えている。
陰陽八卦の説は又、太極理論とも言われ、それは“変化の原理”を説明するものである。八極拳の母系套路「八極小架」 は、まさに陰陽変化の理によって構成された“理論套路”として位置付けられ、さらには“変化”をその源として全体を総括し、研究発展させることにより「六 開八打」の理論を生んでいる。八極拳に於いては、全ての技術は哲学的基盤なくして深く理解することは難しい。
ところで、撃技術は、その主要なる対象を人体に求める。人体の構造と機能を巧みに利用して生み出した“力”を敵となる
相手に加えるのである。八極拳は身体の各部位、即ち「人体八大部位」を協調させ、「六大開」を基本原理として運用する。
孟村では“力”を発出することを「発力法」と称し、「発力歌」にそれが示されている。また“力”のことを“勁”と呼ぶことがあるが、八極拳では寸勁を重
視しているため、その口伝がある。
敵に加える“力”そのものについては、科学的な方法によっても、その作用が説明されている。合成力、杠杆原理などは、力学を以って見事に八極拳の優れた
術理を裏付けるものである。
人体に関する理解は、医学に通じるものがあり、中医学的解釈が原点にある。「八極行気法」は“気”の概念に基づく攻防
の技術であり、人体生理の面から呼吸法を武術に応用したものである。また、経絡理論は「鬼門十三穴」など、攻撃部位としての穴位に生かされている。
“力”や“気”を内在要素とするならば、手法、歩法は外在の技法要素として体系づけられる。手型は、三種の基本手型と、変化の中に工作原理を取り入れた
八大手型に整理され、また歩法は、十六大歩を重んじ、五種の歩型を基本歩型としており、変化して動きを伴えば、それは活歩となる。
身法は“力”を象形の変化として表現するもので、動物の動きを取り入れた「十大象形」、さらに補足十形として「十大勁別」がある。
技術と理論は不可分の関係にあり、別々に存在できるものではない。その意味で姿勢と動作に関して展開される理論は、技
術の基本的かつ中心的な部分と深く関わっていると言える。姿勢や動作には各々要領があり、短く口訣としてまとめられている。手法、歩法を体現したものには
「八字要訣」がある。
八極拳の高度な理論は、個々の技術が経験により進化して導かれたものである。「撃技六字訣」等の要訣や歌訣、「六不輸」等の理論は、経験の集大成であ
り、各々が有機的に結び付き、さらに研究され発展して独自の撃技術原理は形成されている。過去の経験はそこに集約され、究極の「無形原理」へと繋がってい
るのである。
(1998.9.29作成/1999.5.12更新)